「業務の効率化を図りたい」「社内の作業手順を標準化したい」といった課題を抱える企業は少なくありません。しかし、具体的にどのように取り組めばよいのか、どこから手をつければよいのか悩まれている方も多いのではないでしょうか。その解決の鍵となるのが「業務フロー」です。適切に設計された業務フローは、組織の生産性向上やコスト削減に大きく貢献します。本記事では、効率的な業務フローの作成方法から運用・改善まで、実践的なポイントを詳しく解説していきます。
Contents
業務フローの基本と目的を理解しよう
業務フローで実現できる3つの効果
業務フローを導入することで、組織には3つの重要な効果がもたらされます。1つ目は、業務の可視化による情報共有の円滑化です。文書や口頭での説明だけでは伝わりにくい業務の全体像を、誰もが理解しやすい形で表現できます。
2つ目は、業務の標準化による生産性の向上です。
プロセス全体を見直すことで、不要な作業を特定し、より効率的な方法に置き換えることができます。また、標準化により、新しいメンバーの教育時間を短縮し、一定の品質を維持することが可能になります。
3つ目は、問題点の洗い出しによる業務改善の促進です。業務フローを作成し可視化することで、日常業務では気づきにくい非効率な部分や改善すべきポイントが明確になります。これにより、ミスの削減や業務時間の短縮など、具体的な改善につなげることができます。
| 効果 | 具体的なメリット |
| 情報共有の円滑化 | ・業務の全体像を視覚的に把握・誤解のない情報伝達 |
| 生産性の向上 | ・教育時間の短縮・業務品質の標準化 |
| 問題点の洗い出し | ・非効率な作業の特定・具体的な改善策の立案 |
分野別のフローについては以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
経営戦略と業務フローの関係性
業務フローは、組織の経営戦略と密接に関連しています。業務フローを戦略目標に合わせて最適化することで、企業全体の競争力を高めることができます。
BPMを導入することで、働き方改革やグローバル化といった環境変化に迅速に対応し、企業の効率性と生産性を向上させることができます。
具体的には、業務プロセスの可視化により、業務全体における各タスクの役割や関連性が明確になります。これにより、無駄な作業の削減やリソースの最適配分が可能となり、コスト削減と品質向上を同時に実現できます。
プロセスの標準化により、品質のばらつきを抑え、顧客満足度を高めることができます。顧客は一貫性のあるサービスを受けられるため、企業への信頼感が向上します。
従業員の意見やフィードバックを積極的に取り入れることで、より実用的で効果的な業務改善が可能になります。このように、業務フローは組織の戦略目標達成を支える重要な土台となるのです。
業務フロー図に必要な5つの基本要素
開始・終了（ターミナル）
業務フロー図は、プロセスの開始点と終了点を明示することで、業務の流れを明確にします。通常、開始や終了は楕円形の記号で示され、フローの範囲を直感的に理解できるようにします。
処理（プロセス）
業務フローの中核となるのが「処理（処理）」です。各業務の実行内容を長方形のボックスで表し、業務プロセスの全体像をわかりやすくします。
判断（ディシジョン）
業務プロセスには、Yes/Noの条件分岐が発生する場面があります。これを表現するのがひし形の「判断」記号です。判断の基準を明示し、次に進むべき流れを示すことで、業務の意思決定を可視化できます。
入力・出力（データ）
業務フローには、書類作成やシステムへの入力・出力といったデータ処理が含まれます。これを示すために平行四辺形の記号を使用し、情報の流れを明確にします。
矢印（プロセスの流れを示す）
プロセスの進行方向を表すのが矢印です。矢印が複雑に交差しないように整理し、業務の流れが直感的に理解できるように設計することが重要です。
フローチャートについては以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
効率的な業務フロー分析の具体的手順
現状業務の洗い出しと分析
現状の業務プロセスを分析するために、まず業務マニュアルや業務分担表などの既存データを収集します。この際、社内の情報だけでなく、顧客や取引先からの意見も取り入れることで、多角的な視点での分析が可能になります。
収集したデータを基に、ビジネスプロセスモデリング表記法（BPMN）を用いて業務フローを図式化します。これにより、業務の開始から終了までの流れを階層やカテゴリー、タスクごとに整理できます。
図式化の過程で、請求書作成や伝票記帳などの定型業務にRPA（Robotic Process Automation）を導入するといった具体的な改善案が見えてきます。
業務フローの可視化により、ワークフロー管理システムによる稟議書の申請・承認の自動化など、効率化の機会を特定しやすくなります。さらに、改善後の効果測定もスムーズに行えるため、継続的な業務改善のサイクルを確立できます。
シンプルで分かりやすいフロー図の作成
業務の全体像を明確にする
まずは、業務の流れ全体を整理し、どの範囲をフロー図に含めるか決定します。無駄な要素を省き、業務の核心部分をシンプルに可視化することが重要です。
使用する記号を統一する
フロー図の可読性を高めるため、記号の使い方を統一しましょう。判断、処理、データ入出力などの基本的な記号を正しく使い分けることで、関係者全員がスムーズに理解できます。
矢印の流れを整理する
業務の進行方向が一目でわかるよう、矢印の向きを整理します。左から右、または上から下の方向に統一することで、フロー図の見やすさが向上します。
適切な粒度で作成する
フロー図の細かさは、業務の目的に応じて調整しましょう。詳細すぎると複雑になり、逆に大まかすぎると実用性が損なわれます。全体と詳細のバランスを考慮しながら作成することが重要です。
作成後のフィードバックを取り入れる
業務フロー図は一度作成したら終わりではなく、関係者の意見を取り入れて改善を繰り返すことが重要です。定期的に更新し、業務の変化に対応できる柔軟なフロー図を維持しましょう。
業務フロー作成ツールの選び方
業務フロー作成ツール選定時の注意点
業務フロー作成ツールを選ぶ際は、組織のニーズと規模に合わせた選定が重要です。
代表的なツールとして、Microsoft Visio、Lucidchart、draw.ioなどがあります。これらのツールはそれぞれ特徴が異なるため、以下のポイントに注目して選定する必要があります。
まず、ユーザーインターフェースの使いやすさです。直感的な操作が可能で、チーム全員が簡単に使えるツールを選びましょう。
次に、コラボレーション機能の有無です。複数のメンバーが同時に編集できる機能や、コメント機能を備えたツールは、チーム作業の効率を大きく向上させます。
また、予算との兼ね合いも重要です。無料のオープンソースツールから、月額制の高機能ツールまで、価格帯は様々です。組織の規模や使用頻度を考慮して、適切な予算設定を行いましょう。
| 選定ポイント | 確認項目 |
| 使いやすさ | ・操作の直感性・学習コストの低さ |
| 機能性 | ・共同編集機能・テンプレート機能・データ連携 |
| コスト | ・初期費用・ランニングコスト・ユーザー数制限 |
フローチャート作成ツールについては以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
業務フローの運用と改善の実践ポイント
効果的な業務フローの更新サイクル
業務フローを効果的に運用するには、定期的な更新サイクルの確立が不可欠です。一般的な更新サイクルは、四半期ごとの見直しを基本としながら、組織の変更や新規プロジェクトの開始時には臨時の更新を行います。
特に重要なのは、業務フローの更新担当者を明確に定め、レビュー体制を整備することです。担当者は現場の声を収集し、実際の業務との乖離がないか確認します。また、更新履歴を残すことで、変更点の追跡や問題発生時の原因特定が容易になります。
更新時には、以下の3つのポイントに注目します。まず、業務の実態と現行のフローの整合性を確認します。次に、ボトルネックや非効率な工程を特定し、改善の余地を検討します。最後に、新しい技術やツールの導入による業務効率化の可能性を探ります。
なお、更新した業務フローは、関係者全員が閲覧できる場所に保管し、変更点を明確に周知することで、スムーズな業務の遂行が可能になります。
業務フローから始める改善活動の進め方
業務フローの改善活動は、現状のフローをチェックし、無駄な業務や不必要な工程を特定することから始まります。担当者へのヒアリングを通じて、現場の細かな問題点を洗い出し、業務フロー全体を詳細に分析します。
この分析結果から見つかった課題には、優先順位を設定することが重要です。「何をいつまでにどうするか」という具体的な目標を定め、改善計画の方向性を明確にします。中間目標も設定することで、改善活動のモチベーションを維持できます。
改善策実施後は、効果の検証を行います。計画通りに進んでいるかを確認し、成功要因を分析してノウハウを蓄積します。また、目標が達成できない場合は原因を分析し、改善策を再検討します。
特に注意すべきポイントとして、不要なダブルチェックの有無や、承認待ちによる作業の停滞などを重点的に確認します。業務フローの改善により、コスト削減、業務効率化、生産性向上など、多くのメリットを享受できます。
成功企業に学ぶ業務フロー改善事例
業務フロー改善の代表的な成功事例を2つ紹介します。
今野製作所は、板金加工や油圧機器製造の分野で実績を持つ町工場です。個別注文の増加に伴う業務プロセスの複雑化に対応するため、大学教授と連携して独自の生産管理システムを開発しました。その結果、情報共有の効率化と生産性向上を実現し、2019年8月期には過去最高益を達成しています。
行政分野では、つくば市が2016年からペーパーレス役員会議システム「ConforMeeting/e」を導入し、大きな成果を上げています。70人規模の庁議における資料作成の負担を大幅に軽減し、年間25万枚の紙削減を実現しました。さらに、資料のデジタル化により情報共有の即時性も向上し、業務効率化に成功しています。
これらの事例から、業務フローの改善には、現状分析に基づく適切なシステム導入と、組織全体での取り組みが重要だと分かります。
| 企業・組織 | 導入施策 | 成果 |
| 今野製作所 | 生産管理システムの開発 | 過去最高益達成 |
| つくば市 | ペーパーレス会議システム導入 | 年間25万枚の紙削減 |
業務フローの最適化で組織の生産性を向上させよう
業務フローの適切な設計と運用は、組織の効率化・標準化・改善を促進し、競争力の向上につながります。業務の可視化により情報共有がスムーズになり、標準化によって生産性が向上、さらに問題点の発見を通じた継続的な改善が可能になります。
業務フローの作成には、適切なツール選びやシンプルで分かりやすいフロー図の作成が重要です。また、定期的な見直しと改善を行うことで、実態に即した業務フローを維持し、組織の成長を支える基盤となります。
業務フローの最適化は一度で完結するものではなく、継続的な改善が不可欠です。成功企業の事例を参考にしながら、自社に合った業務フローを構築し、より効率的で生産性の高い組織運営を目指しましょう。
なお、弊社では業務フローの設計及び施策立案支援を実行しています。もしご希望ある場合はお声がけください。よろしくお願いします。