チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)とは、マーケティングを管掌する役員を指し、最高マーケティング責任者、とも呼ばれる。Cスイート、CXOと言われるトップマネジメントポストの1つで、欧米ではCEOに次ぐ重職ながら、日本ではまだ耳慣れないのではないだろうか。
本記事では、マーケティングの重要性が高まる中で関心が高まっているCMOの定義、ミッション、役割と、日本における課題について解説したい。
Contents
CMOの定義
CMOとは、マーケティング担当役員のこと
CMO (Chief Marketing Officer)はマーケティングを主に管掌する役員、最高マーケティング責任者を指す。部門横断で企業価値の向上を牽引するのがミッションで、社長にレポーティングするのが通常だ。
80年代に米国で登場したポストであり、狭義のCMOは役員であるが、広義のCMOの定義には(役員でない)マーケティング本部長・部長も含まれることが多い。2018年の研究によれば*、国内でCMO(役員)を設置している企業は上場企業の7.9%と、まだごくわずかでしかない。
マーケティング統括部長、部長といった(役員でない)広義のCMOを含めても、設置会社の比率は11.3%と低水準だが、2014年に行われた別の調査では、CMO職を設置している上場企業が0.3%という数値であったことを考えると、2014−2018年の間でCMO職が急増していることがお分かりいただけるだろう。
直近の調査データが存在しないが、ウィズコロナでマーケティングの重要性が一層高まり、CMO職はさらに増加しているものと思われる。
*「日本型 CMO の現状と展望― CMO は業績にどの程度貢献しているか ―」田中 洋 他著 (4, 2019)
CMOのミッションと役割は?
CMOのミッション:企業価値を高め、収益拡大を図ること
CMOのミッションは、マーケティングを通じて企業価値を戦略的に高め、将来も見据えた収益拡大を牽引することである。ゆえに、米国においては社長に次ぐポストという位置づけとなっている。
一方で、日本においては広告宣伝部長のようなミッションに止まっているケースがほとんどではないだろうか。グローバルブランド企業においては、成長(グロース)を生み出すことをミッションとするポストであるため、CMOポストを「グロース・ハッカー」「チーフ・グロース・オフィサー(CGO)」という名前に置き換える動きも見られている。
CMOの役割:多種多様、かつ、時代とともに変化
戦略的に企業価値を高める、というミッション遂行のためには、市場・顧客理解から、イノベーション、価格、チャネル戦略など、マーケティングに関わる要素を統括する。組織により差はあろうが、CMOの主な役割を列記してみよう。
上流
- マーケティング戦略策定
- ブランドマネジメント
- 市場調査
- プロダクト・マーケティング
- イノベーション・マネジメント
- チャネルマネジメント
- 価格戦略
下流
- マーケティングコミュニケーション (宣伝広告、PR)
- カスタマーサクセス(顧客が製品・サービスを使い成功体験を得ることを支援。顧客生涯価値(LTV)を高める取組)
- カスタマーサポート
- マーケティングのパフォーマンス測定(ROI, フリーキャッシュフローなど)
CMOは、R&D、生産、企画、営業、財務などさまざまなラインと組織横断的に協働する必要がある。広告宣伝においては代理店との協働もあるだろうし、昨今では、戦略上、他社との協働なども役割として担うこともあるかもしれない。
CMOは、時代の変化に対応する先端ポストであるため、その役割は常に変化してゆくとも言えるだろう。
企業が抱えるCMOの課題
企業が抱えるCMOの最大の課題は人材不足
マーケティング強化にともなって自社にCMOポストを置くことを検討する企業が、まずぶつかる壁は人材だと思われる。
1.人材不足
CEOと取締役会がCMOポストの設置を決めたとしても、必要なスキルをすべて備えたCMOを見つけることは容易ではない。欧米企業でのCMOの経験・スキルを持った人材が日本にはそもそも少ない上、そうした人材を日本企業が十分活かせるかという問題にまず直面するだろう。
2.役割と権限設定
次に課題となるのは、CMOの役割をどう設定するかだ。CMOの本来の目的である企業価値向上の達成のためには、その実現に必要となる権限を組織横断的に設定しなくてはならない。自社組織が縦割りで、CMOが思うように戦略・施策を遂行できないと、せっかく雇った人材が十分に活躍できず、短期で辞めてしまうといったことも起こり得る。
3. 進化するCMOの役割
顧客ニーズやタッチポイントなどが急速に変化する中で、CMOの役割も急速に変化している。とくに近年では、デジタル分野への知見や経験が重要となっている。海外のCMO、CEOは、CMOに求められるスキルとして「先見の名(未来を読む力)」、「ビジョンと戦略を自身の言葉で伝えられる説得力」、「ダイバーシティ&インクルージョン」などを挙げているが、今後の時代の変化に対応する柔軟さとスピードは、何よりも必要だろう。
日本企業にCMOが少ないのはなぜか?
日本の縦割り組織と“ものづくり信仰”がCMO普及を阻んできた?
日本にCMOを設置している企業が8-11%程度しかないということは、前述した通りだ。その8-11%のCMOですら、CMOと名乗ってはいても、実際にやっていることは広告宣伝部長と変わらないことも多い。これはなぜなのか、考えてみたい。
日本企業の縦割り分業スタイル
日本企業はこれまで、研究開発、生産、営業…といった形で縦割り型の組織で十分機能してきた。組織横断的に統括する部署としては、経営企画が置かれている企業が多く、マーケティングが組織横断的に統括するという発想がそもそも馴染みにくい。
日本のものづくり信仰
日本企業では今でも「ものづくり信仰」が強い。品質が良い製品を作れば自然と売れる(はず)という思い込みが強く、マーケティングを無意識に軽視している経営者は、今なお多い。
グローバルブランドが市場調査やブランディングを必須の投資と考えるのに対し、マーケティングの必要性を強く感じていない企業は、「投資し回収する」という発想はなく「コスト」と捉えてしまうために、マーケティングへの投資自体に及び腰になってしまう。
広告宣伝を広告会社に丸投げ
広告宣伝部長はいても、実際の広告宣伝戦略を代理店任せにしている企業が多いのではないだろうか。外部のリソースを活用しながら統括するのと、丸投げは異なる。自社で手掛けるという発想がないので、経営も、マーケティング責任者もCMOを置く必要を感じずに来てしまったということではないだろうか。
日本企業にCMOが少ない理由は他にも多々あると思うが、日本の企業組織の壁が厚過ぎて、外部変化に合わせて組織形態を変えられるだけの柔軟性がない、というのが実は一番大きな理由ではないだろうか。
デジタルシフトにより、日本にもようやくCMOが普及する?
ウィズコロナをきっかけに日本でもCMOの効果が認められやすくなった
ウィズコロナをきっかけにマーケティングのデジタルシフトが加速し、マーケティングの効果計測が進み、マーケティングにより収益牽引できることが明らかになってきた。企業経営におけるマーケティングの重要性が、ようやく認識されつつあるのではないだろうか。
CEOに次ぐ程のレベルでないとしても、企業内で組織横断的に役割を果たすCMOが多々登場し、プロダクト・アウトから市場や顧客のニーズを取り込むマーケット・インの方向へマーケティングもシフトしている。
CMOを設置した企業と設置していない企業とでは収益に差が生じるという調査結果もある。本記事を通じて、もしCMO設置に興味を持っていただけたなら、ぜひ前向きに検討を進めていただきたい。
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